企業のITは、比較的予測しやすい職場環境を想定して構築されていました。すなわち、従業員が問題を報告するとサポートが始まり、IT部門は従業員から提供された詳細情報をもとに、遡って原因を特定していくという流れです。デバイスやアプリケーション、そして働き方が管理しやすかった時代には、このモデルは理にかなっていました。
今日ではデジタルワークプレイスの変化が速すぎて、IT部門は報告された問題に取り組むだけでは不十分です。チケットが作成される頃には、従業員はすでに貴重な時間を無駄にしていたり、問題を迂回して仕事を続けていたり、ツールの使用をすでに諦めていたり、管理対象外の代替手段に頼ったりしている場合があります。
IT責任者にとっての課題は、もはやチケットをより迅速に解決できるかではなく、そうした摩擦を生み出す要因をどう取り除けるかにあります。
1人の従業員は、コラボレーションツール、クラウドアプリケーション、セキュリティプロンプト、仮想デスクトップ、AIアシスタント、自動ワークフローなど、数十ものデジタルタッチポイントを利用しています。そのうちのどれか1つでも動作が遅くなったり、クラッシュしたり、ユーザーを混乱させたりすると、生産性が低下してしまいます。
問題は、こうした摩擦の多くが、チケット化されることさえないという点です。従業員は、問題を迂回して仕事を続けたり、同僚に助けを求めたり、ツールの使用をやめたり、問題の報告さえせずに時間を浪費したりします。
このような隠れた摩擦は、ビジネスにおける最大の盲点の1つになりつつあります。
自律型ITの登場により、目指すべき目標が変化しました。IT部門は、従業員からの問題の報告を待つ代わりに、デジタルワークプレイス全体で何が起きているかをリアルタイムで把握し、根本原因を特定し、一般的な問題を自動的に解決し、混乱が広がる前に従業員が変化を切り抜けられるように導くことが可能になりました。サービスデスクの理想的な対応とは、もはやチケットの迅速な解決ではありません。そもそもそのチケットは存在する必要がなかったのです。
ここでデジタル従業員体験(DEX)が重要な役割を果たします。DEXとは、従業員が日々利用しているテクノロジーをどのように体験しているかを把握し、その体験を向上させる取り組みのことです。IT部門が測定できる指標と、従業員が実際に感じていること(デバイスのパフォーマンス、アプリケーションの健康状態、ネットワークの品質、導入状況、従業員の感情、そして積もり積もって大きな生産性の低下につながる些細な問題など)を結びつけます。
しかし、DEXは単なるダッシュボードではありません。自律型ITを支えるデータ基盤なのです。従業員環境全体にわたる正確なリアルタイムのテレメトリがなければ、自動化を導入しても、その範囲が狭すぎて実用性に欠けるか、あるいはリスクが高すぎて信頼できないものになってしまいます。
自律型ITが重要なのは、IT部門へのプレッシャーの質が変化したためです。
経営陣はAI、クラウドへの移行、職場のモダナイゼーションに資金を投じていますが、こうした投資が価値を生み出すのは、従業員がそれらを受け入れ、信頼し、摩擦なく活用できるようになってからのことです。新しいAIツールを誰も理解できなければ、変革は実現できません。サービスデスクに問い合わせが殺到するような移行は、進歩とは言えません。質問をのらりくらりとかわすだけで、最終的に従業員をIT部門につないでしまうチャットボットは、決して自律型とは言えません。
自律型ITが重要なのは、ただの新しい個別のツールではなく、従業員環境全体にわたるインテリジェンスが求められるからです。
つまり、このITシステムは、動作の遅いデバイス、アプリケーションの依存関係の問題、設定の不備、導入状況の格差などを検出し、その根本原因への対策を取ることができます。従業員は時間を無駄にした後ではなく、業務の進行中にサポートを受けることができます。IT部門はデータを用いて、ビジネスからどれだけの時間とコストの無駄、および業務への支障を削減できたかを証明することもできます。
この最後の点が極めて重要です。企業は、単なる願望のみで自律型ITを運用することはできません。優れた可視性、ガバナンス、そして運用モデルにより、測定可能で信頼性が高く、拡張性のある自動化を実現する必要があるのです。
1) データ/テレメトリ基盤の監査
多くの組織では、最初に取るべきステップは自動化ではなく、データおよびテレメトリ基盤の真摯な監査です。
IT部門は、デバイスの健康状態、アプリケーションのパフォーマンス、ネットワーク品質、従業員の感情、導入状況、およびチケットのトレンドを、1つの統合ビューで確認できるでしょうか?それらのシグナルは、アクションを支えられる十分なリアルタイム性を持っているでしょうか?それらのシグナルは、自動化に向けた十分な信頼性を備えているでしょうか?ビジネスへの影響と関連付けられているでしょうか、それとも依然として個別のツールやチームの中に閉じ込められたままでしょうか?
自律型ITは、こうした基盤に支えられています。データが不完全だったり、断片化していたり、処理速度が遅すぎたりする場合、IT部門はタスクを自動化できても、体験まで確実に管理することはできません。
2) AI主導のアクションに対する明確な境界線の設定
2つ目のステップはガバナンスです。AIを活用した意思決定には、明確な境界線が必要です。企業は、どの問題を自動的に是正できるか、どの問題には従業員の同意が必要か、どの問題には人間の承認が必要か、そしてどの問題は絶対に自動化すべきでないかを明確に定義する必要があります。つまり、自動化を環境全体に拡大させる前に、エスカレーション、例外の扱い方、監査可能性、変更管理、および責任の所在に関する方針を策定しておく必要があるのです。
3) セキュリティとコンプライアンスの早期導入
セキュリティとコンプライアンスも、早い段階から取り入れる必要があります。自律型ITは、企業のリスク管理の枠外に置くのではなく、むしろリスク管理を強化できるものでなければなりません。最も成功している組織では、IT運用、セキュリティ、コンプライアンス、および従業員体験の各チームが、データの利用、アクセス、是正措置、報告に関する共通のルールに従い、当初から連携を図っています。こうした連携を通じ、IT部門は新たなリスクを生み出さずに、業務を迅速に進めることができます。
4) サービスデスクの「体験の管理者」への進化
サービスデスクもまた、進化する必要があります。自律型モデルでは、サポートチームは単にインシデントが発生するのを待つだけではなく、「体験の管理者」となります。彼らの業務内容は、繰り返し発生する摩擦の特定、知見と自動ワークフローの改善、従業員の感情の評価、是正のロジックの微調整、そして問題が実際に解消されているかどうかの測定へと移行していきます。サービスデスクは、単なるキューの処理者ではなく、デジタルワークプレイスのインテリジェンスとしての役割を果たすようになってきています。
5) まずは現状を基準として把握し、後にROIを実証
最後に、企業は自動化を拡大する前に、基準となる指標を確立しておく必要があります。
IT部門が将来、自律型ITの価値を証明したいのであれば、今、現状を測定しておく必要があります。これには、チケットの件数、繰り返し発生するインシデントの数、平均解決時間、デバイスのパフォーマンス、アプリケーションのクラッシュ、ログイン失敗、導入率、従業員の感情、生産性低下の状況、予防可能な業務中断によるコストなどが含まれます。これらの基準値により、IT部門の活動だけでなく、ビジネス上の観点からもROIを示せるようになります。
現在もチケットのみで業務を行っているチームにとって厄介なのは、基準そのものが変化しつつある点です。
従業員はすでに、プライベートな場面において、瞬時に、かつ目立たない形でテクノロジーが機能するのを当然のこととして期待しており、その期待を仕事にも持ち込んでいます。企業のテクノロジーがついていけていない場合でも、彼らは必ずしも不満は述べません。むしろ無言で関与を避け、承認済みのツールを使わなかったり、あるいはシャドーシステムやシャドーAIを使ったりすることで、管理できないリスクを生み出します。
先行している企業は、単にサポートチャネルを増やすだけでなく、予防を軸にIT体制を見直しています。事後対応型のインシデント管理から、先を見越した体験管理へと移行しつつあるのです。彼らは、すべてのエンドポイント、アプリケーション、ワークフロー、および従業員のやり取りを、次なる業務中断を防ぐために役立つシグナルとして捉えています。
それには、従来と異なる考え方が必要になります。チケットは、すでに何らかの問題が発生したことをIT部門に伝えるものです。しかしDEXデータにより、IT部門は、どこで摩擦が生じているか、誰が影響を受けているか、どのくらいの頻度で摩擦が発生しているか、そしてそれがより大きな問題になる前に自動化によって安全に解消できるかを把握できます。
Nexthinkは、まさにこのような変化に対応できるよう開発されました。
Nexthink Infinityは、エンドポイント、アプリケーション、ネットワーク、ユーザーにわたるデジタル従業員体験をIT部門向けにリアルタイムで可視化します。AI、自動化、アプリ内ガイダンスの活用により、業務上の摩擦を特定し、大規模に問題を解決し、業務が中断される前に従業員をサポートすることが可能になります。
Nexthink Sparkは、上記のモデルを従業員向けのパーソナルITエージェントとしてそのまま拡張し、多くのよくある問題をキューに回す代わりに、自律的に解決します。
これらにより、今まで以上に成熟した運用モデルの基盤を構築できます。すなわち、IT部門が体験を把握し、自動化を管理し、リアルタイムな対応を取り、摩擦の低減がビジネスにどのような影響を与えているかを実証できるようなモデルです。
なぜなら、目指すべき目標は単にチケット件数の削減だけではないからです。
チケット件数が少ないということは、IT部門はその背後にある摩擦を解消できているという重大なことが起きている証拠です。それこそが、自律型ITが秘めている真の可能性です。サービスデスクの対応をほんの少しでも速くすることではなく、テクノロジーを目に見えないほどさりげなく、信頼性が高い形で、ビジネスからのあらゆる将来のニーズに対応できるようにすることが重要なのです。
成功できるかどうかは、誰が最初に自律型ITを導入するかではなく、誰がそれを安全かつ一貫性のある形で大規模に運用できるかによって決まるでしょう。
従業員体験をリアルタイムで把握できるテレメトリデータはありますか?AI主導のアクションの信頼性を保つガバナンス体制は整っていますか?IT、セキュリティ、コンプライアンス、サービスデスクの各チームは、予防を軸とした共通のモデルに基づき連携できていますか?ディスラプションが薄れ始める頃にROIを証明するための基準をすでに確立できていますか?
これらの質問に「はい」と答えた企業は、単に問題解決を迅速化できるだけでなく、従業員が本来経験すべきではなかった多くの摩擦を解消できるでしょう。
これがゼロチケットの取り組みのスタート地点です。すなわち、より優れたDEXデータ、よりスマートな自動化、そして「体験の管理者」を中心に据えたIT組織が大切です。
自律型ITの基盤を構築する準備はできていますか?
一流企業が、ゼロチケットおよび先を見越したIT運用の基盤としてDEXデータを活用している理由
自律型ITにおいては、従業員体験の正確なリアルタイムでの可視化が不可欠です。DEXは、摩擦がどこに存在するかを把握し、その影響を測定し、是正措置を安全かつ自動的に実施するために必要なテレメトリを提供します。
これにより、IT部門は体験を把握し、自動化を管理し、リアルタイムな対応を取り、摩擦の低減がビジネスにどんな影響を与えるかを実証することができるようになります。
企業は、IT部門が体験を把握し、自動化を管理し、リアルタイムな対応を取り、ビジネスにどんな影響があるかを実証できるようにするための基盤の構築に取り組むべきです。
その第一歩として、強固なテレメトリとデータ基盤、AI主導のアクションに対する明確なガバナンス、セキュリティおよびコンプライアンスチームとの早期の連携、体験を重視したサービスデスクモデル、そして成果を測定してROIを実証するために活用できる基本指標の策定が挙げられます。
成功する自律型ITプログラムは、以下の5つの基盤の上に築かれています。
こうした基盤をしっかりと整えた組織は、自動化を安全に拡大し、AI主導のアクションへの信頼を築き、事後対応型のサポートから先を見越した体験管理へと移行しやすくなります。
サービスデスクは、事後対応型のインシデント管理から、先を見越した体験管理へと移行しつつあります。問題が報告されるのを待つ代わりに、すべてのエンドポイント、アプリケーション、ワークフロー、および従業員のやり取りを、次なる業務中断を防ぐために役立つシグナルとして捉えます。
サポートチームは、寄せられるチケットへの対応に注力するよりも、組織全体でテクノロジーがどのように利用されているかを把握するとともに、生産性に影響が出る前に問題発生を未然に防ぐ役割を担うようになります。