EUC(エンドユーザーコンピューティング)およびデジタルワークプレイスの多くの責任者にとっての課題は、テクノロジーの不足ではありません。 むしろ、自動化、AI、デジタルトランスフォーメーションに長年投資してきたにもかかわらず、なぜワークプレイスの問題が今も発生し続けているのかを理解することが肝心です。
サポートチームは現在も膨大な数のチケットに対応しています。従業員エクスペリエンスの向上を目的としたテクノロジーの導入が新たな混乱を生む場合もあり、IT部門は、そうした問題が苦情、インシデント、またはサポートリクエストとしてエスカレーションされるまで、従業員がどんな体験をしているのかをなかなか把握できません。
AIの台頭によって、このギャップはさらに広がっています。ある調査によると、ナレッジワーカーの71%が「AIのおかげで作業が速くなった」と回答している一方で、70%は依然として自分のワークフローの質を「普通」または「悪い」と評価しています。つまり、テクノロジー自体の能力は向上しているものの、多くの従業員は現在も変わらず、仕事を必要以上に難しくする障壁に直面し続けているのです。
こうしたさまざまな課題は、別々のものとして扱われがちです。 しかし、これらの課題には共通点があります。それは、日々の業務を妨げるITの問題です。
職場での摩擦の最大の原因を探る前に、まず「デジタル摩擦」とは実際に何であるのかを定義することが重要です。
「デジタル摩擦」とは、従業員の業務を遂行しにくくする技術的な障壁のことです。その形態は多岐にわたり、アプリケーションの動作の遅さ、ログインの失敗、VDIの遅延、デバイスの不具合の頻発、アップデートの適用を原因とする不具合から、ワークフローの破綻、ツールの導入状況の格差、そして従業員の時間を奪いながらも基本的にチケットとして報告されることのないその場しのぎの対応に至るまでさまざまです。
これらは決して新しい問題ではありません。しかし、こうした問題がどれほどの頻度で発生しているのか、どれだけの従業員に影響を与えているのか、そして組織全体でどれほどの生産性がひそかに損なわれているのかを把握するのは現在も困難です。
多くのITチームは、このような事態に対処するために、IT部門に報告された問題(つまり、チケット発行につながった問題や、ダッシュボードに表示された問題、管理者にエスカレーションされた問題など)の情報に頼っています。しかし、IT部門に報告された問題は、従業員エクスペリエンスのほんの一部でしかありません。 その裏には、「目に見えない摩擦」というはるかに大きなカテゴリーが存在します。 「目に見えない摩擦」とは、従業員に影響を与えながらも従来のIT指標ではめったに確認できない、些細な業務中断、遅延、非効率性、その場しのぎの対応といったものです。
従業員の中には、こうした問題を報告しない人もいれば、日常業務の一部として諦めて受け入れている人もおり、さらには技術的な問題だと認識すらしていない人もいるでしょう。 問題の例として、次のようなものが挙げられます。
これらは個々に見れば些細な問題のように思えますが、積み重なると生産性が大きく低下します。そして最大の課題は、こうした見過ごされているITの問題は、従来のIT管理指標だけでは把握しにくいという点です。
従来のITモデルでは、生産性が下がるほど深刻な摩擦の問題があるなら、従業員はそれを報告するだろうという考え方が前提となっています。 したがって、チケットの数が少ない場合は、ほぼすべてが正常に機能しており、従業員は生産性を維持し、職場のテクノロジーにも満足しているという意味であるとされます。 しかし、この相関関係はそれほど単純なものではありません。
しかし、実際の従業員の行動は、IT部門の想定どおりとは限りません。
例えば、アプリケーションの動作が遅くなったとき、すぐにITサポートへ問い合わせる人はどれほどいるでしょうか。
多くの場合、アプリケーションを再起動したり、同僚に相談したり、インターネットで解決方法を調べたりします。多少の不便を我慢しながら、そのまま仕事を続ける人もいるでしょう。
つまり、問い合わせがないことは、問題がないことを意味しません。
問題は、IT部門に報告されないITの不具合も数多く存在することです。水面下で些細な遅延が蓄積されて業務の中断が徐々に増え、その場しのぎの対応が当たり前のやり方として定着していきます。時間が経つにつれ、IT部門が測定するエクスペリエンスと、従業員が実際に経験しているエクスペリエンスとの間のギャップは拡大し続けます。
以上の理由のために、チケットの数だけでは全体像のうちの一部しか分かりません。職場での問題を把握するために多くの組織が利用している指標には、従業員が報告することを選んだ問題しか反映されず、毎日生じている膨大な量の摩擦が見過ごされたままになっているのです。
従業員が快適に働けるIT環境を実現するために、最初に必要なのは、新しいツールの導入や自動化ではありません。
まず重要なのは、IT部門が把握している問題と、従業員が実際に経験している問題のギャップを埋めることです。
従業員がITサポートに問い合わせる前に、あるいは「わざわざ報告するほどではない」と諦めてしまう前に、どのような問題が発生しているのかを把握する必要があります。
先進的なITチームは、報告された問題から従業員エクスペリエンスそのものへと焦点を移すと同時に、次のような問いを投げかけています。
これらは、現時点ではサービスデスクだけでは答えられない難問です。しかし、真に摩擦のない職場を実現するためには、これらの問いへの対処が不可欠なのです。
従業員が快適に働ける環境とは、すべての業務やプロセスが自動化されている環境ではありません。
大切なのは、従業員の生産性を妨げるITの問題、特にこれまで見過ごされてきた問題を継続的に把握し、解決していくことです。
その実現には、IT部門が従来の運用方法から考え方を転換する必要があります。
従来のIT運用 | これからのIT運用 |
システムの状態を測定する | 従業員のIT体験を測定する |
問い合わせを受けてから対応す | 問題を先回りして特定する |
新しいテクノロジーの導入に注力する | 業務を妨げるITの問題を解消する |
業務フローを闇雲に自動化する | 業務がどこで滞っているかを把握 する |
目指すのは、従業員がITの問題を意識することなく、本来の仕事に集中できる環境です。 テクノロジーが当たり前に機能し、働く人を自然に支える。それこそが、これからのデジタルワークプレイスのあるべき姿です。
組織にとって最大のコストを生む摩擦は、往々にして測定するのが困難なものです。
ITチームはサービスデスクのパフォーマンスを効果的に追跡できるようになりましたが、従業員エクスペリエンスの大部分は依然として水面下に隠れたままです。実際、多くの組織は、ダッシュボードに表示されず、インシデントを引き起こさず、サポートチケットで報告されることもないデジタル摩擦のために、毎年数十万時間分もの人件費を失っている可能性があります。
摩擦が目に見えなければ、対応の優先順位をつけたり、測定したり、改善したりすることはできません。そのため、優秀な組織はこの問題に対して異なるアプローチを取っています。つまり、どうすればより多くのテクノロジーを導入し、ワークフローをさらに自動化し、AIをもっと導入できるかを考えるのではなく、まず従業員がどういった領域で摩擦に直面しているのかを調べることから始めます。
なぜなら、摩擦のない職場の未来は、組織がどれほど多くのテクノロジーを導入したかによって決まるものではないからです。むしろ、従業員が本来の力を発揮するうえでの障壁をどれほど効果的に特定し、取り除くことができるかにかかっています。
従業員が快適に働ける環境づくりは、これまで見過ごされてきたITの問題を可視化することから始まります。
ウェビナー「The Invisible Productivity Crisis(目に見えない生産性の危機)」では、デジタル摩擦が生産性に与える隠れた影響を先進的なITチームがどのように特定しているかを解説しています。