多くのIT部門は、ヘルプデスク自体の効率を高めるという、従来と同じ方法で、ヘルプデスクへの問い合わせ件数を削減しようとしています。具体的には、ルーティングの改善、SLAの厳格化、セルフサービスの拡充、サポートフローへのAIの導入を行います。これらの変革により、キューの処理速度は向上しますが、そもそもの問い合わせが届き続けるのを防ぐことはできません。
過去にあったのと同じ問題が、IT部門に持ち込まれ続けます。従業員は、デバイスの動作の遅さ、アプリの信頼性の低さ、更新の失敗、アクセスに関する問題、導入後の混乱などのために、貴重な時間を失っています。チケットを作成する従業員もいます。しかし、問題がチケット化されずに放置されるケースもたくさんあります。いずれにせよ、会社がこれらの問題を吸収し続けなければなりません。
IT部門はどこかの時点で、「ヘルプデスクが忙しすぎるのは、ヘルプデスク自体の問題ではないのかも」という、もっと有意義な問いを投げかける必要があります。
多くの企業では、サービスデスク自体は問題の発生源ではありません。デジタル環境の対策チームが、IT部門に対応しきれない速さで摩擦を生み出してしまっていることが問題なのです。職場での変革のスピードが加速し、新しいツールやアップデート、AI関連の取り組みが、ほとんどのチームにとって把握しきれないほどの速さでビジネスに浸透しつつあるせいで、従来のモデルの限界が見え始めています。
従来のヘルプデスクのモデルは、チケット、エスカレーション、MTTRといった、より目に見える形のIT環境を前提として構築されていました。こうした指標は今も重要ですが、それらは従業員が把握して報告できる問題しか示しません。
デジタル上の摩擦のほとんどは、そもそもチケット化されることさえないのです。
問題に直面した従業員は、ノートパソコンを再起動し、次の作業に進みます。彼らはアプリの動作が遅くても我慢します。また信頼性が低いと感じられるワークフローは放棄します。エクスペリエンスに一貫性がなかったり、分かりにくかったりすると、経営陣が多額の投資をして導入したツールも使わなくなってしまいます。あらゆる問題を報告するにしても手間がかかりすぎ、生産性が低下してしまいます。
こうした技術的問題のために、従業員や企業の生産性は著しく低下していますが、チケット制のヘルプデスクは事態をほとんど把握していないのが現状です。しかも、現在のIT環境は、わずか5年前と比べてもはるかに複雑化しています。
今日のエンタープライズ環境は、次のような要素の寄せ集め状態です。
そして、あらゆる変革にはリスクが伴います。
特定のユーザーのグループでは、Windowsの更新プログラムのためにオーディオドライバーが正常に動作しなくなります。また、あるブラウザのパッチは、別のブラウザに不可欠なアプリと競合します。AIツールの導入が早すぎて、その使い方が従業員に永遠に理解されないこともあります。地域やデバイスの種類によっては、コラボレーションアプリの更新版の動作が異なる場合もあります。
これらの問題はどれも、単独で見れば致命的なものではありません。しかし、これらの総体は、絶え間ない業務上の負担を生み出しています。そして、このようなデジタル摩擦が鉛の重りのような足かせとなっていることを、多くの企業が依然として過小評価しています。
従来のヘルプデスクのモデルは、AIを活用したデジタルワークプレイスのニーズに対応できるように設計されていません。Forrester社によると、サービスデスクから完全なサポートを受けられていると感じる従業員は55%のみです。チケットには、IT部門が対応すべき問題が記載されていても、1日の業務全体にデジタル摩擦が与える影響の全容はそこには反映されません。
全員が毎日オフィスに出勤していた頃は、チケット制のモデルがうまく機能していました。確かにテクノロジー環境は複雑でしたが、今ほどではありませんでした。たった1つのパッチが環境全体を機能不全に陥らせる可能性がある今の時代には、チケット制では対応しきれません。
何十年もの間、こうした問題への対策は明白でした。つまり、増え続けるチケット件数に対応可能な処理能力を持つマネージドサービスプロバイダーに業務を委託するか、社内スタッフを増員するかです。従業員が実際にチケットを作成している場合は、その対策も有効でしょう。しかし、現状はそうではありません。
IT部門には、従業員による報告を超えるスピードで問題が広がる環境に対応できる新たな運用モデルが必要です。つまり、あらゆるデバイス、アプリケーション、AIツール、ネットワークをリアルタイムで可視化すると同時に、誰かがチケットを発行する前に自動的に対策を講じることができる必要があります。まさにデジタル従業員エクスペリエンス(DEX)によって、これに対応できるようになります。DEXは、従業員が問題を報告するのを待つ代わりに、摩擦の発生源を特定するためのインテリジェンスと、問題がサービスデスクに到達する前に根本解決するための自動化機能をIT部門に提供します。
さらに、データ、コンテキスト、実行能力すべてにアクセスすると同時に厳格なガバナンスの下で動作するAIエージェントも統合すれば、問題をリアルタイムで解決できるだけでなく、そもそも摩擦が生じない環境を構築できる運用モデルの基盤を実現することが可能になります。
これはまるで夢物語のように聞こえるかもしれません。しかし、この新しい自律型DEX運用モデルを支えるテクノロジーは存在しています。さまざまな業界の企業が、業務を効率化し、デジタル摩擦を解消し、競合他社に先んじるために、すでにこのテクノロジーを活用しています。
実際の活用例を以下にご紹介します。
ある従業員はノートパソコンの動作が遅くて困っていました。従来のモデルでは、ユーザーは「端末の動作が遅い」といった曖昧なチケットを送信するか、端末を再起動して問題が解消されることを祈るかのどちらかでした。
しかしDEX主導のモデルでは、その従業員はMicrosoft Teams内で、リアルタイムのエンドポイントデータに接続されたパーソナルITエージェントを通じ、サポートを直接依頼することができます。このエージェントは、起動時間、リソース使用状況、CPU、メモリ、ディスク使用率、直近のパフォーマンス傾向など、バックグラウンドで何が起きているかを把握できます。
エージェントは、従業員にトラブルシューティングをさせたり、症状を説明させたり、技術者の到着を待たせたりせずに、考えられる原因を特定し、承認済みの解決策を提示します。その従業員が確認したところ、解決策は機能し、デバイスも再起動後に再び正常に動作するようになりました。
この問題は、サービスデスクのキューにまた1つ曖昧なチケットとして追加される前に解決され、IT部門は手作業でのトリアージをせずに済み、従業員もより早く業務に復帰できました。
DEXプラットフォームは、環境全体で、このような数千ものデータポイントを集約し、トレンドを特定し、課題の優先順位付けを行い、対策を自動化します。そして何よりも重要な点は、再発を未然に防ぎ、同じ問題が繰り返し起きないようにできることです。
Accenture社は、このデータに基づきデバイスポリシーを更新し、全従業員が32GB以上のメモリを搭載したデバイスを確実に使用できるようにしました。初期費用はかかりましたが、この変革のためにセキュリティ体制が著しく向上し、ハードウェアの耐用期間を延ばすことができたため、長期的にはハードウェアコストの削減につながりました。
Southwest Airlines社は、Microsoft SCCMクライアントの健全性を確認し、サービスを再起動し、必要に応じて修復または再インストールを行う自動ワークフローを構築することで、クライアントの障害率20%を特定し、これを解消しました。
単純そうに聞こえるかもしれませんが、DEXツールとそれを活用する戦略は 、業務のあり方に真の革命をもたらすことができます。ITを活用すれば、回避可能なサービスデスクへの問い合わせを減らし、サービスデスクの労働時間を反復的なトラブルシューティングから他の有用な業務へと振り向け、従業員の仕事に支障が出る前に問題を未然に防ぎやすくなります。
摩擦を取り除く速度よりも早く摩擦が生じるような環境では、チケットの振り分けを改善するだけでは問題は解決しません。可視化と自動化による対策が必要です。まずはそこから始めましょう。
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